閉店になる、この時間が来るのが怖い。
私のは入れない空気が、店の中に出来上がるから。
後片付けをしながら雪さんのための珈琲を淹れる一瀬さんと、それを一番近くのスツールに腰掛けて眺める雪さんの姿を出来るだけ視界に入れないようにしながら、私は一日の売り上げの数字を取って、レジのお金を数えて。
いつでもレジ締めが出来る様に下準備をして、一瀬さんの閉店の言葉を待った。
「綾さん、そろそろ締めましょうか」
「はい」
言われて店の外に出てプレートをcloseにひっくり返した。
ガラス越しに雪さんのほっそりとした背中を見て、溜息をついた。
誘惑、といった。
あの人は毎日、私達が帰った後で一瀬さんを『誘惑』しているんだ。
あの空気から逃げ出す為に早く帰りたいのか、それともここにとどまりたいのか自分でもわからなくなってきた。

