君と花を愛でながら



こうして思い出しているその瞬間にも、その空気が私を包んでいる錯覚をしてしまう。
けれど、その空気は飛んできた声で一瞬で霧散して、はっと我に返った。



「おーい、綾ちゃん! 手が空いてたら、ケーキお願い」

「あ、ごめんなさい! すぐ!」



今は、考えちゃだめだ。
仕事に切り替えなければ……もうあと三十分もすれば開店時間になってしまう。


ケーキを冷蔵に移して、それからテーブルのセットをしてダスターで拭いて……後は入り口付近を軽く掃いてからプレートをオープンにひっくり返す。


パンッ!
と両手で頬を叩いて気合を入れ直すと、大きく息を吸う。


誰と恋をしても失っても
この店が今の私の全部で、ここで一日の全てが始まる。


恋だなんだと悩むより、今日のブーケのことを考えよう。
この店がなければ、何も始まらないのだから。