君と花を愛でながら

「な、なんで? あれ?」

「先に着いたんだけど、あんまり綾ちゃんが遅いから心配になって周辺探してたの。携帯かけても全然でないし」

「えっ、嘘」



言われてバッグの中の携帯を覗くと、確かに着信のランプがついていた。


「すみません、気付かなかった」

「いいよ、見つかったし」

「お水ももらっちゃった……」

「それはお願いごととは関係ナシ」


ちょっと首を傾げて見下ろす片山さんの笑顔が甘くて優しくて、咄嗟に俯いた。
もう随分こんな空気に晒されていい加減慣れてもいいものなのにちっとも無理だ。


でも、居心地が悪いだけでもなくなって来たのがちょっと不思議。


「で、俺のお願いごとだけど」


ただ、この空気でお願いごとと言われるとものすごく嫌な予感しかしない。


「な……なんでしょう」

「そうだなあ」

「あ、急いで決めなくても」

「今夜一晩、付き合ってっていうのは?」



悩むのは素振りばかりで、片山さんの口からはすらすらと言葉が出てくる。
文字に表わしたら、語尾にハートマークでもついていそうな顔で言った。



「お泊り」

「おと……」



まり。
お泊り。


その単語の意味を頭で三度回しても、私の知る「お泊り」以外の意味があるようには思えず、ぼんっと顔に熱が集まる。


「おとっ?」

「は、冗談だけど」


ころん、と言葉を返す片山さんにも一度集まった熱はなかなか散らばってはくれない。


「か、からかわないでくださいっ」

「だってなんか警戒されてる気がしたからさー」


だからって余計警戒するようなこと言ってどうするんだろう。