君と花を愛でながら



「あの……なんであんな連れ出し方したんですか?」

「……別に。面接気取りでムカついただけ」

「ほんとに?」



何だか、私の知らない話がまだあるような気がする。
片山さんが、わざと話を遮ったような気がしたんだけど……彼は重ねて尋ねた私の言葉には答えずに、ぶつぶつと腹立ちまぎれの言葉を繰り返した。



「何様だよ、マスターも何好き放題言わせてんだか」

「マスターは、お掃除してくださってたから、聞いてなかったのかも」

「だとしたって、あの女の相手綾ちゃんにさせといてほったらかしって」



すたすたと歩く速度は、こないだみたいにゆっくりじゃなくて、私は若干小走りで隣を歩く。
片山さんの横顔が、街灯に照らされて余計に険しく見えた。



「わっ」



引っ張られる早さに足がおっつかなくて、爪先が小さな段差にひっかかってつんのめる。
膝を擦りそうなくらいに体勢が崩れて、慌てて片手を付こうとしたけど。


ギリギリで延びてきた腕に上半身を支えられ、咄嗟にそのまましがみついた。



「ごめんなさい!」

「いや、こっちこそごめん」



服から甘い砂糖の香りと、ほんの少し汗の匂い。
見上げると片山さんは少し申し訳なさそうな、なんとも言えない表情だった。


しがみついてしまった腕を離して、近すぎる距離から逃れる。
道の先にはもう駅が見えていた。



「じゃあ、明日。十時に綾ちゃんとこの駅まで迎えに行くよ」

「あ、ありがとうございます」



男の人と待ち合わせの約束をするのは初めてで、恥ずかしくなって俯いたまま。


「じゃあ」と手を上げて、くすぐったい空気から逃げるように背を向けた。