カウンターの中から厨房に声をかければいいだけなのだけれど、同じ空間から少しでも離れたくて厨房の中に入り込む。
「片山さん、デザートプレート一つお願いします、シフォンで」
「へーい。……って何、綾ちゃんなんでそんなヘロヘロなの」
「別になんもないです」
ヘロヘロになってる人間にヘロヘロを指摘するのは余計にヘロヘロになるのでやめて欲しいです。
「ちょっと大人の空気が居心地悪かっただけです」
肩を竦め乍ら、笑って舌を出して見せると。
「……なるほど」
意味がわかったのか、片山さんはちらりとカウンターの方角へ目を向けた後、黙ってプレートの用意をし始める。
作業する片山さんの背中を見てから少し迷ったけれど、戻らずにこのままプレートが出来上がるのを待たせてもらうことにした。
反対側の壁際にある業務用の冷蔵庫にもたれ掛かって、靴の爪先を眺める。
今は、雪さん以外にお客さんいないし。
誰か来たら、ここにいてもカウベルの音は聞こえる。
そう、ここにとどまる言い訳を自分の中でしていると、ふとさっきまで聞こえていた調理器具が触れ合うような音が消えた。
「綾ちゃん、ちょっとごめんね」
気づくとすぐ目の前に片山さんがいて、不意をつかれた心臓がどくんと大きく高鳴る。
片山さんは、観音開きの冷蔵庫の扉を開いて中から大きな絞り出し袋に入ったホイップクリームを取り出した。

