夕方、カウベルが鳴って。
お客様じゃないとなんとなく、気が付いてしまう。
いや、お客様には違いないんだけど。
出入り口を見ると、やっぱり雪さんがいた。
今日も淡い色のスーツが似合うすらりとした立ち姿で、夏の暑さを感じさせない、涼やかな微笑みを湛えている。
「いらっしゃいませ」
「こんばんは」
雪さんは、いつも私にもきちんと挨拶をしてくれる。
だけど、いつも案内するまでもなくカウンターの真ん中の席を陣取って、直接一瀬さんにオーダーする。
大抵、モカマタリ、もしくはブレンド。
だけど、今日は珍しくメニューに目を通していた。
「どうしようかしら。今日はちょっと、甘いの食べたい気分なのよね」
雪さんがメニューを一瀬さんに向けながら、ある一点を指差した。
「ねえ、このデザートプレートについてくるブーケって?」
「好きな花でミニブーケを彼女が作ってくれるんですよ。綾さん」
問いかける雪さんにそう答えて、一瀬さんの目が私に向けられた。

