君と花を愛でながら

カップを洗おうと、蛇口のハンドルを跳ね上げようと手を出すと、大きな手が横から伸びて私の手からカップを浚って行く。


「洗っておきますから、もう上がってください」


その声に、咄嗟に緩んだままの顔を上げてしまった。
無表情のマスターとばっちり目が合う。


自分でもわかる。
口元はにやついたままで頬も熱い。


しまった、と気付いた途端にますます頬が熱をもち、気恥ずかしくて目を逸らしそうになったその時だった。


マスターの唇の端が、少し持ち上がり眉尻が下がる。
ゆったりと穏やかで、優しそうな苦笑い。


「ご友人がお待ちですよ」
「はっ、はいっ!」


どきんっと音がしそうなくらい、大きく鼓動が跳ねて今度こそ私はマスターから目を逸らし、慌ててカウンター下の棚を覗き込む。
私物入れになっているその棚から、自分の鞄の柄を掴むと足早にカウンター内から逃げ出した。


「すみません、それじゃお先に失礼します!」


出入り口近くで一度振り向いて、勢いをつけて直角のお辞儀をする。
顔を上げると、依然揶揄するような表情の抜けない片山さんがひらひらと手を振っていて、マスターは既にいつも通りの無表情に戻っていた。