そして、ついにその日はやってきた。
「行ってきます」
玄関に立つと、母さんは言った。夜に出かけるときの母さんは、いつもとちょっとちがう。何がってうまく説明できないけど、いつもよりも、もっと、きれいな気がする。
「いってらっしゃい」
ドアが閉まる。おれは頭の中で10数えた。数え終わると、ドアをそっとあけて外をのぞいた。
母さんのすがたが、道の向こうに消えていくところだった。
ばあちゃんは、ごはんを食べた後のお皿とかコップを洗っているところだ。
だいじょうぶ。見つかっていない。おれは玄関マットの上に「ばあちゃんへ」と書いた手紙をおくと、リュックをかついで、スニーカーをはいて外に出た。足音をさせないように母さんを追いかける。
