中学のとき、父親の浮気をきっかけに両親が離婚した。幼い頃から喧嘩の絶えない夫婦だった。俺は最初、母親と暮らすことになったが、そのうち母親も男を作って出て行った。

俺は父親と、父親が再婚した若い女に育てられることになった。父はやがて、俺が継母に色目を使っていると疎み始め、中学の終わりごろから父親の借りたマンションで一人暮らしをさせられることになった。俺に言わせれば、色目を使ってきたのは継母の方なのに。


やるせなさから、俺はやがて不良グループと行動を共にするようになった。

当時ヤッさんは進学校に籍を置く高校3年生で、そのグループのリーダーとなぜか親しかった。


初めて会った日、ヤッさんは俺とほんの少し言葉を交わしただけで言った。
「お前は奴らと付き合う必要ない」。


そして俺は、ヤッさんの一声でグループを抜けることになる。抜けるときのゴタゴタも、全てヤッさんが収めてくれた。

彼は俺が両親に見放されていることを知ると、父方の祖父母と同居できるよう取り計らってくれた。亡くなった祖父母はあれこれ気にかけてくれ、俺は「家庭」の温かさを味わうことができた。…母と継母によって植えつけられた女性不信だけは、治らなかったのだが。


俺が今日、まがりなりにも真っ当な社会人として生活できているのは、ヤッさんのおかげだ。


「お前の女嫌いは筋金入りだもんな。いや、嫌いっていうのとは違うか。根本的に信用してないもんな。女のことを」

「いまでも信用してないよ」

俺は笑った。

「でもさ。『知りたい』って思える相手に出会ったんだ」

「いつ」

「昨日」

ヤッさんがガクンと項垂れる。