「日和。入れ」


その声に意識を浮上させた。

ぼうっとしたまま、
ただ言われるがままに来た先は
見たことない場所。


「…」

足を踏み入れると、
そこはファミリー用のマンションのようだった。



「今日からお前はここで暮らす」

言いながら靴を脱いで部屋に上がっていく蓮さん。

「…来い」


その声が聞こえてほぼ反射で靴を脱いで
蓮さんの後ろについて行く。




ドンッ

「ぐっ…」


リビングの扉を閉めた瞬間に
お腹にきた衝撃。


床に崩れ落ちた。



「なぁんでお前戻ってこねぇんだ?あ?」


ひゅっ…

と喉が鳴った。



蓮さんの、顔だ。

お兄ちゃんじゃ、なくて、蓮さんの、顔だ。


床に座り込んで見上げた顔が
ついさっきまで思い出していたあの顔と、
重なる。



「あのクソ男に引き取られたって聞いた時の俺の気持ち…わかる?
その後は一人暮らしだって言うのに
あんな虫をたくさん引っつけて。」


お仕置きが必要だな?

そう言ってズボンを探って。

「さて…高倉……」

取り出したスマホ。


っ!?



「っれ、さん…!!」

潰れていた喉から声を出す。



「あ゛?」

「おね、がいします…
りゅうおっ……あの人達に、手は、出さないで…」



あぁ弱虫。
だんだん小さくなる声にそう思った。

手をぎゅうっと握って、
精いっぱいの気持ちを込めて頭を下げる


「チッ…」

聞こえた舌打ちに肩が跳ね上がる。



「そうだなぁ…でもお前、ウラギリモノだろ?」

顔を上げるとニヤ、と笑う顔。


「っ…」

「いいか?
お前は自分の意思でここにきた。
あいつらのことはなんとも思ってない。
この場所が一番いい。」

だろ?

とでも言うように首を傾げる。




「っ…はい、蓮さん」

「よし。そうだよなぁ。」


持っていたスマホをズボンのポケットにしまう蓮さんを見て、
ほっと息を吐いた。