自転車でペダルを全速力で漕いでいる青年は、腕時計の時間を気にしながら駅に向かっていた。

タクマ「よし...このままいけば、間に合うかな?」

ブレーキを少し落として右に曲がり、踏切を渡ろうした時、一匹の猫が鳴いていた。
黒猫「みゃあー。」

声を聞いたと同時に、何故か足を止めて猫を見つめてしまった。

タクマ「こいつ...いつもいるよな?野良なのかな?首輪もついてないし」

前々から気にはなっていたが、このようにまじまじと見るのは初めてだ。
夜空のように真っ黒で瞳は海のようにブルーに輝いている。

黒猫「みゃーお」
猫はこのように鳴くと、蛇のようにするすると路地裏に消えていった。

タクマ「猫はやっぱり、気まぐれなのかな?次あったらワシャワシャしてみよう。って...いけない!電車に間に合わなくなる!」

慌てて、僕は踏切をせっせと渡っていった。

タクマ「それにしても、デートに遅れてくる男ってやっぱりかっこ悪いよな。」

自転車の鍵を締めながら、ため息を吐いた。

タクマ「しかも、今日で連続三回目...さすがにまずいよな。一回目はバイトで疲れて寝坊して、二回目はバイトで頑張りすぎて寝坊。そして、本日の三回目もバイトが忙しくて寝坊..だもんな。
って全部バイトじゃん!マズイよー」

そう思いながら、駅のホームに携帯を片手に定期券を使い入った。

駅のホームには人が数人ほどいた。
お昼頃なのでさすがに人は少ない。
お弁当を広げながらおばあさんが目を細め、ゆっくりと食事をとれるほどここは落ちついていた。

と、ここでさっきの黒猫がトイレの壁と電柱の隙間からヌッと顔をだしてきた。
そして、おばあちゃんの方に向かっていった。

黒猫「みゃあ!」
おばあちゃん「おやおや...どうしたんだい?」

おばあちゃんは、猫にウンウンと頷きながら話しかけた。
猫はそれに答えるように、おばあちゃんの足にすり寄ってきた。

タクマ「あの猫、こんな所までくるのか。」

ネコの神出鬼没さに驚きながら、おばあちゃんに甘える猫を見つめた。
そして、猫はお弁当の鮭をおばあさんからもらい

黒猫「みぁお!」

と嬉しそうに鳴きながら、出てきた隙間に入っていった。

タクマ「現金な奴だな。これだから猫は嫌いだよ。」

ボソっと喋り、携帯を開きながら階段下のあまり人が並ばない場所で電車を待った。
おばあさんは、幸せそうな顔で猫が見えなくなるまで見つめていた。

ふと、携帯画面のLINEの履歴を見る。
そして、寝坊したことを悔やんだ。

タクマ「バイトをさすがに増やし過ぎたな...週2から週5に増やしたのは、さすがに辛い。」

そう考えながら、電車の時刻表を眺める。

タクマ「でも、アイツの為にもバイト頑張らなきゃな。なんたって来週は...」

アナウンス「ピンポンパンポーン!」

ホームにアナウンスが鳴り響いた。

アナウンス「一番線に電車がまいります。黄色い線の内側にお並び下さい。」

タクマ「やっときたか、ラインで今から乗るって送ろう。」

携帯≪ピロン♪≫

タクマ「よし。送れた!」

先ほどの黒猫のように心の中では、尻尾を振りながら黄色線に近づき、僕は電車を待った。


早く彼女に会いたい。


続く