学校から出ると、


もうすでに雨は本降りになっていた。


苳(ふき)は鞄の中を漁った。


「…最悪。」


こんな日に限って


いつも鞄に入っているはずの


折りたたみ式の傘がない。


そう言えば、先週通り雨に降られて


傘を出して、


ベランダに干したままになっていたことを


今思い出した。


「ついてないな」


委員会が長引き、


5時半を過ぎた学校に


数少ない苳の友達が


いるはずがなかった。


仕方なく鞄を頭の上で持ち


外に一歩踏み出そうとした時、


後ろから呼び止められた。


「桐乃さん!」


思わず振り向くと、


3メートルほど後方に


苳の苦手とする


隣のクラスの保健委員の子が


息を切らして立っていた。


「…はい?」

「傘ないの?」


その隣のクラスの保健委員、辻井(ツジイ)は、


片手に傘を持ってその場でじっとしたまま動かない。


「ええ…まぁ。」


曖昧に返事をしたが、


苳は辻井が何を言おうとしているか


大体はわかった。


「駅まで送るよ。」

「結構です。ありがとう。」


少し食い気味に丁寧に断ると


苳は踵を返し、


校門の方へ小走りで向かっていった。