「……前田くん、わたし」
「返事なんてわかってるから、言わなくていい」
前田くんは、ポケットの中から二枚の紙を取り出して、私の手に握らせた。
「これ……」
みれば、それは最近公開されたアクション映画のチケットで。
前田くんに、誘われていたものだった。
「違う国じゃ、バレンタインは男からプレゼント渡す日だろ」
「でも……」
「俺からの、最初で最後のプレゼント」
そう切なそうに言う前田くんの笑顔に、胸がギュッと苦しくなる。
「じゃあ、俺帰るな」
そう言って、資料室のドアを開けた前田くんの手首を掴む。
言わなきゃ、いけない。
前田くんの気持ちには応えられない。
そんな私が、前田くんに言わないといけないのは「ごめん」なんかじゃない。
「前田くん、好きになってくれて、ありがとうっ」
こんな、私をずっとみてくれて。
前田くんは、一瞬目を丸くして、そしてすぐに「おう」といつもの笑顔をみせた。

