よいしょ、ともう一つの山から少しとって、自分の持つ方へと移す前田くん。
多分、こういうところが女の子からかっこいいと思われている一つなんだろう。
「野村、もうチョコあげた?」
「う、ううん、まだ……」
「……そっか」
「そういえば、前田くんは、誰かからチョコ、もらわなかったの?」
「あー、まあ、渡しにきてくれた子はいたんだけど、断った」
「え、なんで?」
そうきく私に、前田くんは「ほんと鈍いんだなっ」と苦笑い。
「……好きな子がいるから。その子以外からもらうつもりはないって」
「え、いるの、好きな子」
「おうよ。ずっと片思いだけどな。きっと、この先も」
「わかんないよ、そんなの。人の気持ちって変わるし」
私が、孝先輩を好きになったように。
「わかるよ。ずっとみてきたから。その子が俺のこと、恋愛的に好きじゃないってことも、これからそういう風に思ってくれることにならないことも、わかる」
前田くんは、下を向いて少し切なそうに言った。

