最終下校時刻より一時間前に、長谷川先輩は立ち上がる。
「んじゃ、お先」
「あ……はい、さよなら」
「おっす、また明日」
そう手を振る先輩の背中に、胸が苦しくなる。
教室から先輩がでたと同時に、私もゆっくり立ち上がった。
「私も……帰ります、ね」
「ちょい待ち、今日は俺との約束あるだろ」
「明日にしてくれませんか、今日はちょっと……」
「嫌だ」
「しのはらせ」
篠原先輩、そう呼ぼうとしたとき、先輩の顔が目に映る。
とても、苦しそうで、泣きそうな顔。
「なあ、莉緒はさ、いつまで逃げてるつもりだよ」
「逃げるって……なんですか急に」
「ずっと、ずっとああやって先輩の後ろ姿を見てるつもり?」
そんな篠原先輩の言葉に、胸が痛む。

