愛梨が深く息を吸う音が聞こえる。


 そんな音まで拾えるなんて……高性能な携帯電話。



「生活が大変なのは分かるけど……龍ちゃん一人で全部抱え込んで、無理しすぎてるよ。雷也も心配してるんだよ。目の下のクマも酷くなってるし……」


 本棚に置いてある小さい手鏡を見てみる。確かにクマはあるけど、昔からだろ。


「それに、慶二兄さんって何か龍ちゃんにお願い事したんでしょ? 昔から二人で話す時は慶二兄さんに相談されてる時が多かったよね」


 よく見てるし、よく覚えてると思う。


 相談されている時が多かったなんて……愛梨が見たのは1回や2回くらいなものだ。


 雷也は秀才のお勉強タイプだが、愛梨に備わっているのは何の才能だろうか。


 女の子ってこういう時の記憶力は普段の記録とは別なのかな。
 

 いや、単に『女』だから視野が広いのか?


 よく言うよな……男は点で物を見て女は面で物を見るって。



「関係ないだろ、そもそもどうしてお前がそんな細かい事知ってるんだよ……?」


「あるよ! あたし、ずっと見てるんだから分かるよ。龍ちゃんのことくらい……」


 ここまで話を聞いて……オレはある事に気づいた。



 なるほど、二人とも喧嘩したんだな。