龍一はブレザーのポケットから、ある物を取り出す。


「携帯……えっ!?」


 アンテナ表示は『圏外』を示している。電波が無いのではなく、解約していた。


 画面はひび割れ、使いずらい事は間違いないだろう。


「えっと……お金は払ってないから、ただの時計とライトとメモ帳だけの存在」


「何、そのオチ。じゃあ、見せて?」


「ほいっ、オレの返事、読んで。愛梨の事だから、こんな事があると思って、ずっと持ってたんだ」


 壊れた携帯に、魂は二度と宿らないだろう。


 だが、少年はあの激戦すらも、敬愛する人物との別れすらも、全て飲み込んで、思い出にするつもりだった。


 あの時、投げつけた携帯をこっそりと拾って、後日郵送で送り届けたのは竜二だった。龍一は再び投げつけたい衝動に駆られたが、愛梨への返事の為にとっておいたのだ。


「ねぇ、龍ちゃん」


 一瞬の静寂をもたらす、秋の風が屋上を吹きぬけた。