「うん…龍一みたいな、携帯のコトが全く分からない人が居るなんて……想像も……しなかったから…」


 イチゴミルクの紙パックを手に持って、葵は窓の外を見た。少し、眠そうだ。


 対面に座るオレには、その横顔が、とても大人びて映ったが、イチゴミルクが幼さを引き立たせている。ギャップってこういう事を言うのかな。


「しかし、焦った。ホント、葵だった瞬間……」


「わたしも、心臓が飛び出るかと思った……。

龍一と……3回戦の内で、一回でも……メッセージしてたら、気づいたのかもしれないけど……ここまで全部、雷也さんだったんでしょ…?」



「そうだな、ヘタクソなメッセージ打ってたら葵も気づいたかもしれない。

だけど、結果オーライだから……葵(あおい)に葵(まもる)の撃破方法を聞いてたなんて、面白い。

実際、面白くはないけど……そう思うしかないだろう、終わった……今は。

だけど、葵じゃ無かったら、結果的に、オレ達は……負けてた。最短攻略法を見つけたんだぜ。

気づいてたと思うけど。地図だった。葵はどうやって進んだ?」



「バッテリーなんだな……あの充電器……接続すると、プレイヤーは紫と緑になってた…の…。それで、方角とか調べて……色々……」


 葵は、ゆっくりと目を閉じた。



「後で……聞くか……オレも、寝る」



 無事に終わって……本当に良かった。



 オレは、本当に会いたくはない。慶兄も……霧島慶二も無言だという事は、認めたという事だろう。


 雷也も愛梨も葵も、みんな複雑な胸中だと思う。


 この気持ちに整理がつくまでは、もう少し時間がかかる。これは、慰めとか……そういう感情の問題で済む事じゃない。


 しっかりと受け止めて、少しずつ溶かしていく。


 自分の中で、怒った事実を鎮めていく。


 今は、辛いけど、


 きっと、向き合える時が来るかもしれない。


 大人になるって、こういうコトなのかな。



 
 オレ達は、この1週間で……大切な物を学ぶ事が出来たんだ。