雷也はメガネを拭きながら、葵へ問う。


「ううん……分からないな」


「『楽しさ10割』って、呟くんだよ。本人は気づいてないだろうけど、口癖なんだ」


「そうなのか!? 自分では、気づかなかった」


「葵ちゃんも、笑ってるじゃん。龍ちゃんって変人だから、たまに呟くんだよね。あたし、聞き流してたけど……」

 
 確かに、葵は笑っていた。その表情は、本当に楽しそうだ。


 今の場所を地図で調べようとした葵を止めて、オレ達は歩いて、青看板を見ながら駅へ向かう。


 途中、愛梨が足が痛いと連呼していたが、開放された嬉しさから歩は進んだ。道路沿いを歩けば、駅についた。


 上野から箱根まで。2時間半。


 途中、新宿のロマンスカーに乗り換える必要がある。


 都心から90分、箱根は気軽に迎える温泉スポットだ。


 つい何時間前まで、死にかけてたのに、今は旅気分を味わう。愛梨と雷也は、座った瞬間に、すやすやと寝息を立てた。


「そういえば、葵は、気づかなかったのか?対戦相手が、オレ達だって」