どこぞの御曹司でもないのに遊具一つまともに買ってもらえないのは貧乏だから。


 おかげでガキの頃から、オレの居場所は図書室か友達の家だった。


 学校の本はタダだからいくらでも読んだし、友達は遊び道具をたくさん持っていた。


 1LDKの家賃も病気がちな母親に代わり、オレが払っている。


 その母親も先日、入院をして今は病院に居る。


 国の補助があるとはいえ生活は大変だ。


 母親の病院代を捻出しなければならない状況で、携帯電話なんて高い物を契約できるわけもない。


 契約は出来たとしても、本体を買う事なんて絶対に無理だ。


 何度自分の運命を呪った事か分からない。


 貧乏が憎いなんて感情はとうに捨てたと思ったが、こうして意識をするとふつふつと行き場のない怒りが身体を支配する。


 いけない、仕事中だ。


 加藤さんは心配そうな顔でオレを見つめている。


「おいおい、思いつめた顔するなよ? 俺も若い頃は金が無くて苦労したもんだ。でも、頑張ってれば周りが認めてくれるんだ」

 
 加藤さんは少しだけ遠い眼をした。


 若き日の自分の事を思い出しているのだろうか。


「今の若い奴はそれが分かってない。携帯のゲームの世界で活躍しても、現実の結果なんてなぁんにも変わらないのに」



 言う通り、だな。