モバイバル・コード

「あの時の龍ちゃん、1年くらい……酷かった。毎日小学校でも泣いてばかりだった。子供の時のあたしが覚えてるんだから」


「昔話なんて、終わってからしようぜ。雷也は今戦ってるし」


 強い眼差しで、ハッキリとオレの瞳を覗き込んで来る。


「ダメ。龍ちゃんは、トラウマも含めて、本当の意味で超える必要があると思う。

それが、この土壇場じゃなくて良いと思ってるかもしれない。

だけど、あたしも雷也も、ずっと相談してたんだ。龍ちゃんの『本当の願い』って聞いたことが無いから。一度も」
 

 それと、オレの『過去』がどう関係するのか分からない。口で言わずとも愛梨はオレの表情で察したようだ。


「あたしや、雷也のため。お母さんのため。

恩人の慶二兄さんの為だって、口癖みたいになってるよね。

表面上は、『自分だって人並みに欲望がある』とか言ってるけど……神田の公園でも、あたしは龍ちゃんに言ったよ。龍ちゃんは悩み一つ、真剣に話さないって。どうしてそうなったか分かってるの?」


「オレが生きる動機なんて、大した理由は無いよ。自分のミスとワガママで、死んでいたかもしれない人間だ。それを考えたら……自分の欲望なんて小さい物だよ。母さんの病気だって心労もある。結局はオレのせいだ。オレが、オレが」


 言葉に、どうしても詰まってしまう。


 火を見る事は平気だが……『火事』という言葉を発しようとする度に、喉に引っかかる。