モバイバル・コード

 慶兄はタバコをふかしながらも雷也への鋭い視線は外さなかった。


 目には何の感情もこもっていないように見えた。威圧感が……凄い。


「……常識は常識だよ、社会一般で当たり前とされている見識。いくら龍ちゃんが可愛い弟分だからって1000万をぽんと渡すなんて聞いたこと無いよ」


 雷也は少し困った表情をする。慶兄の雰囲気に飲まれている。


 愛梨も目をパチパチさせて慶兄を見つめていた。


「そうだな。確かに聞いたこと無いな。んじゃ聞くけどさ。10年前に携帯電話を持っていた高校生の割合は分かるか?」


「……僕たちが7歳の頃だから……分からないよ」


「4割」


 慶兄はそう言い放ち、ガラス製の灰皿を手に持つとそのまま立ち上がり、窓辺でタバコを吹かした。


 月明かりとタバコの煙が混ざった横顔は別人のようだった。


「今が何割か、それは言わなくても分かるよな?」



──常識は変化するんだよ



 慶兄は窓を開け、またタバコを吹かしてつぶやいた。


 背中に纏いつく翳(かげ)りが哀愁を感じさせる。


 場の空気が、少しだけ空気が重くなる。