モバイバル・コード

 前を歩く二人は携帯ゲームの話に夢中になっている。


 また雷也の順位があがったのか?


 楽しそうで、いいな。オレはバイトのことを考えているのに。


 近い内に加藤さんの所でまた引越しだ。今度会ったら番号を聞いて、給料が出たらご飯でもオゴらないと。


 秋葉原の改札前から上野方面へ少し歩いていた。


 店先から流れる音楽が背中へ遠のくにつれて、目の前の巨大なビルのエントランスが見えてくる。


 消えゆく街頭のネオンとは対照的に、あの「JaCoPa」(ジャコパ)のトレードマークがネオンを帯びている。


 見上げると確かに高いビルだ。


 最上階は夜の暗さもあり、真下からは見上げる事は出来ない。
 

 クリスマスシーズンはライトアップをするらしいが今は9月下旬。


 まばらに点いている部屋の電灯が、秋葉原の明るい照明とは違って電子の街にいることを忘れさせた。


「こういう顔もするんだね。この街は……僕は昼しか来ないから分からなかった」


 雷也が少しだけ楽しそうな顔をすした。

 
「ああ、寒いし中に入ろうぜ。愛梨もここでは騒ぐなよ」


 外側の手動ドアと内側の自動ドアを抜けて中に入る。


──『コツコツコツ』


 足元一面に広がる大理石が愛梨のヒール音を増幅させる。


 ずいぶん費用がかかったビルだと思う。まぁ国の金だから簡単なことか。

 
 この広いエントランスホールで、催し物の展示会が行われていたのだろう。


 受付正面には『第8回 全日本携帯用アプリケーション優秀品 展示会』と書かれた垂れ幕がある。


 その下に立っている初老の警備員が眠そうに目をこすっていた。