モバイバル・コード

 一つ咳払いをしてから切り出す。あくまでも声色は大人を予想為に低く、低く……。


「分かりました、これでもダメならお電話を切りますね。

新しいビジネスを持ちかけているのにも関わらず、門前払いですか。

こちらの不注意とはいえ、携帯を無くしてしまい霧島氏へ連絡が取れなくなるのは非常に困りました。

せっかくのビジネス話が頓挫(とんざ)するんです。

後日、霧島慶二氏にこの一件が耳に入ればあなたが大目玉を喰らうでしょう。

ですが私は存じません。

『こういう仕打ちを受けて霧島氏の耳に入れる事が出来なかった』

と事実しか述べませんので。

たった一言『南米の龍一から連絡が来てる』と伝えるだけです。

10秒もかからないですし、これだけで彼には伝わるはずです。

これでも霧島慶二氏へお話をして頂けませんか」


ちょっと伝え方が下手かもしれないが、まぁまぁだろ。


 世間じゃこういう風に言うはずだ。


 『ブラフ』ってね。


 『分かりました』と声が聞こえた。上司が覚悟を決めたようだ。
 

 オレは内心ほくそ笑んだ……性格悪いな。


 狼狽した声が受話器から聞こえてくる。


 そりゃそうだ、本当の話だったらまずいよね。


 来賓からの電話の取次ぎをしない部下ってレッテルを貼られたら、これからの出世にも関わる。