モバイバル・コード

「副社長、車の手配は出来ております。打ち合わせの時間まで後30分しかございません、お急ぎ下さい」


 オレ達が今通ってきた自動ドアから、グレーのスーツを着た男が現れた。


 副社長……副社長さんなのか。どうりで高そうなケースを持っていた訳だ。



「あー、キミ、面白い質問ありがとう。キーケースについて聞かれたのは初めてです。

誰もこのキーケースの『本当の価値』を分かってはいないのです。

お目が高い少年、キミはきっと将来成功するでしょう。それじゃ、グッドラック」



 キザなセリフと共に、黒塗りのベンツの車内に消えていった。


 キーケースの本当の価値か。特注品なんてお金持ちしか作れないから誰も分からないのは当然だ。


「へん……な人…。だけど…どこか…でみた…ことあるかも」


 葵がギュっとキツく、オレの右腕を抱きしめてつぶやいた。なかなか面白い人だし、そりゃ副社長なんだから、経営者が読むような雑誌『ベスト!プレゼン!』なんかに出てるだろう。