モバイバル・コード

「これからの情報化社会の展開についてお話をさせて頂きます。少しお時間を頂きますが大事なお話ですのでお聞き下さい。

皆様もご存知の通り、ここ数年で携帯電話を始めとする情報技術は高度な成長を遂げました。

あらゆる情報が瞬時に手に入る時代になり、利便性の向上については説明するまでも御座いません」


 慶兄の視線はカメラを見据えたまま、動かない。


 まるで画面の先に待つ聴衆一人一人の目を見て話しているようだった。


「しかし、利便性と共に浮き彫りになるのが『様々な害悪』です。インターネットは人間に利便性という『善』を持たせましたが同時に『悪』の一面も与えました。


『学校におけるいじめ掲示板』

『出会い系サイトによる未成年売春』

『投資市場への容易な参入による個人破産』

『引きこもりや無職の増加』

『情報販売による利益の搾取や付随する虚業』


話をすればきりがありませんね。もっと分かりやすい例を挙げます」


 慶兄はポケットに入れていた手を台の上にのせ、握り拳へと変えた。


 あまりの迫力にこれが自分の8歳上の男がやっている事だとはとても思えない。
 

 どこかの……大企業の社長のプレゼンのようだ。


 実際、慶兄も会長という職なのだろうが…枠には収まらない印象をオレに植え付ける。