モバイバル・コード

 その時、画面から向かって右側の袖から何かが投げ込まれた。


 慶兄はそれを華麗に受け取った。白いタキシード。
 

 履いているジーンズもその場で抜ぐと、タキシードにあわせたパンツスタイルに早変わりした。


 霧島慶二会長の生着替えを、国営放送でお届けしている状況だった。


 『一瞬、焦りました』


 そうインタビュアーの顔にハッキリと書いてある。

 
 すぐに着替えが終わり、慶兄はインタビュアーからマイクを受け取った。


──『スンッ』


 突然、スタジオの照明が消えた


 スポットライトは慶兄の白いタキシード姿を照らしだす。


 画面の中央、奥にはいつの間にか演説で使うような台が置かれていた。


 慶兄は導かれるように移動し、少し長髪の髪を上にかきあげ、スッと左手をタキシードのポケットに入れた。



 つい30秒前まではクラブ帰りの男だったが…今の正装はとてもサマになってると思う。