モバイバル・コード


 雷也は遠めからオレの姿をしっかり見ていた。


 改札へは行かず、左手の通路に入る。


 ショーウィンドが並ぶブティックの先に、本屋がある。


 この時間に人が来る事はまず無い。


 来るとすれば、理由は2つ。


 何らかの理由で間違えて来るか、 尾行しても人混みでバレないと思ったか。


 おそらく『竜二』なら『プロ』だから、絶対に来なかったろうな……。


 オレは、曲がり角に身を隠す。

 
──『コツ…コツ…』

 
「ヒール音を目立たせないようにしても無駄だよ。ナツキさん」


 女は紺色のマフラーをし、ベージュのコートを着ていた。

 
 ショートヘアーを隠すような白いベレー帽が逆に目立つ。


「……なに…かしら?」


「別に。要所要所でオレ達を尾行してる事くらい気づいてるけどさ、やるなら上手くやろうよ」


「あの、何かあたし達に用ですか? これから本戦2回戦が始まるんですよね? 今はまだプライベートの時間じゃないんですか……?」


 ナツキの後ろからやってきた愛梨の声色が、冬の風のように冷たく、そして低い。


「……課長の指示よ。仕事なの。別にやりたくてやってるわけじゃないわ」


 ナツキはそう言い放つとベレー帽を被り直した。