ここで、まさにここで1点欲しいという場面。


 絶妙なタイミングで最高のセンタリングが上がって来た。


 残念な事に攻めてるのは愛梨だ。


 キーパーは未経験者のオレだ。


 今は『キャッチ』は出来ない。

 
 シュートされたボールを完璧に『弾く』事も出来ない。


 愛梨の弾丸シュートをパンチングでゴールポストに当てて、もう一度愛梨に蹴らせるまでの時間を稼がなければならない。


 オレは日本代表の『恋愛キーパー』じゃないんだ。出来るのか、そんな事。



「分かった!! 分かったよ! ここじゃなんだ、出るぞ」



 オレは愛梨の柔らかい身体を通路へ押し出すと、伝票を持って会計レジへ向かう。


 隣の席に座っている男の視線。


 携帯をいじっていた、太めでドクロ柄のチェックシャツを着た男がこちらを見た。


 人の会話に小耳を挟むな。オレも聞いてしまう方だけどな。


 店を出てすぐに愛梨がくっついてきた。


 雷也との待ち合わせまで後2時間はある。


 『モバイバル本戦』は終わったわけではない。勝ち抜いたとは言われたが、別に優勝した3人になったわけでもないんだ。


 焦る気持ちはもちろんある。


 だけどルールが分からない以上、今はどうする事も出来ない。


 それに…心のどこかで……葵には付き合ったのに愛梨には付き合わないのか……という葛藤(かっとう)がある。


 自分に言い訳をしているのは分かってる。だけど、今はそれでいいんじゃないのか。


 そうだ、久しぶりにあそこに行くか。