雷也が少しだけ、慶兄を失ったショックから立ち直ったように見えた。


「ダメだ、全然掲示板にも載ってない。『モバイバル』の事は書いてあるけど、誰も『本戦』がどういう話なのか知らないみたいだ」


 そういうと雷也はキーボードから両腕を離し、頭の後ろで組んだ。サラサラの髪の毛が指の間に滑り込む。


「大体、もう10時になるんだぞ。あの竜二って奴が言ってたよな?連絡が来るって」


 オレはずっと疑問に持っていたことがあった。


「それに……オレがずっと考えていた事を話していいか?」


「うん」


「ああ」


 二人ともオレの方に顔をしっかりと向けたのを確認してから、オレは寝そべる身体を起こした。


 本当に『カプセル』なんてあるのか?


『モバイバル本戦』の前提を覆(くつがえ)すオレの発言。


 二人がどういう意見を出すのか、それが聞きたかった。


「おかしいと思わないか?小さいカプセルを注射で打ったとか言ってたけど、そんなもんハッタリじゃないのか?」


 オレはずっと気になっていた。本当なのか、と。


 携帯電話の電源やら、遠隔操作だか何かわからないが…電気仕掛けで動く小さいカプセルなんて埋め込めるのか?


「だって、腕に注射の痕があるよ…」


 愛梨の素直な発言が嘘だったら良いのに。


「本当だよ」


 雷也はすぐに答えた。



「技術的に可能だ。ただ表だって出てるか出てないかの違いだけど、ナノテクノロジーは日々進化している。

父さんは内科の研修医時代に『DDS(ドラッグデリバリーシステム)の研究をした事があると話してた。DDSとは内臓の患部に直接薬を運ぶ技術のこと。これは化学的な話だけどね』


 雷也の博学はここでも頼りになる。


「僕は国が嘘を言っているとは思えない。かといって、嘘か本当か試したくはないよ」
 

「じゃあオレが試してみる…?」