モバイバル・コード

 竜二は息を飲んだ。


「……会長は、とてつもない『パワー』を持っている。政府を動かし、民間企業を繋げて今のジャコパを作ったのは会長『一人の力』だ。形容のしようがない。

逆に考えたらな、そんなキレる人物に今や全国へ普及したジャコパを任せたくはない。出来すぎる人間は消される宿命なんだよ。

霧島元会長には途中で何回も『モバイバルプロジェクト』について勘付かれそうになった。だが、部下のふりをしていたオレが誤魔化したりしていたがな」


 強烈な違和感を感じた。


「部下って何だ?」


「俺は政府の『特別情報省所属』となっているが、もっと上の組織の人間だ。これはもちろん言えない。要するに霧島元会長の身辺をスパイしろとの命令を受ける立場だった」


 愛梨と雷也は、考えが、思考が追いつかないのだろう。


 現実感の無い話にオレも追いつかなくなる。


「ちょっと待ってよ!! あたしには何がなんだかさっぱり分からないよ……携帯電話にはまってる『ダメな若者』を消したいっていうあなたたちの理由は分かるよ。

だけど、人殺しが公然と行われるなんておかしいよ!! この国の憲法知らないの?!」


 愛梨が口を開いた。一番の疑問はそこに行き着く。


「確認させて欲しい。『国民主権、基本的人権の尊重、平和主義』これが国の憲法の三原則のはずだ。『基本的人権の尊重』に反しているよ」


 流石に雷也は違う。理論攻めできた。


「正解正解。そうそう、基本的人権の尊重に反していると俺も思うよ。

人殺しするなんておかしな話だよな。だから黙って消えてもらう。

『モバイバル本戦』に参加し、死亡した者は政府が適当に理由を作って闇に葬らせてもらう。

『心臓麻痺』とか死亡診断書に書かれると思うがな」


 核心をつかない解答に少し苛立ちを覚える。


「答えてくれ。なぜ携帯にはまったくらいで殺すんだ? それは『常識』じゃないだろ?」