オレと加藤さんは「要る、要らない」のコントを10分も続けた。


 結局、丸め込まれて携帯電話を受け取った。


 加藤さんは言葉を付け加えた。


「頑張ってれば周りが認めてくれるんだ。おじさんは昼間に龍一君にそういったよな? おじさんと一つだけ約束してくれ」


 真剣になった眼差しとこの言葉をオレは絶対に忘れないようにする。


「龍一君の周りで困っている人が居たら、自分の出来ることで力になってやりなさい。おじさんが出来ることはこんなことくらいだけど、この約束だけは覚えて欲しい」


 その瞬間。


 オレは疑視感に襲われ、慶兄の声が浮かんだ。


 そうだ、あれは中学の卒業式の時だ。


 すでに大学生を卒業して就職をしていた慶兄は、俺の卒業祝いに腕時計を買ってくれた。

 
『忙しい俺に出来ることなんてこんな事くらいだけど、高校行っても頑張れよ。後輩クン。困った奴が居たら力になるんだぞ』


 慶兄と同じ事を言ってるんだ。


 心の奥がじんわりと温まる。