「これがわたしの星くんに対する気持ちかな、」

「じゃあ…」

「でも付き合うとかは考えてないの」

「え…?」

「星くんが好きだって言ってくれたようにわたしも星くんのこと好きやで。でも付き合えないっていうか…」

「先輩のことだから俺に迷惑かかるとか考えてるんですか?」

「だってバイトばっかりで時間もないやん?1年の時それで別れたりしとったから。そんなん分かってて付き合うとかただのばかやん?笑」

「俺の気持ちはそんなんで変わりません」

「星くん、?」

「先輩が忙しいのは知ってます。でもそれで先輩のこと嫌いになったりしません。一緒にいれる時間を大切にします」

「星くんがそれで平気でもわたしは、っ」

「先輩が寂しいなら会いに行きます。先輩がつらいならそばにいます」

「そんなんあかんやん。星くんの負担にしかならんやん」

「負担になんかなりません。好きな人に逢いに行くなんてどこが負担なんですか?」

「…」

「先輩、教えてください。どうして全部1人で抱え込もうとするのか」

先輩はすうっと息を吸ってから話しだした。

「1年の時に星くんみたいに告白してくれた子がおってOKして付き合っとった。でも会える時間が全然ないから飽きられたというか。わたしは好きやったから別れたのが辛かってん。でもな、そんな時に友達がわたしに相談してきてん。彼氏がわたしのどこが好きか聞いても全部としか答えてくれないし、他の子には優しいのに自分にはバカとか言ってくるって。わたしは友達の彼氏ともそれなりに仲よかってん。2人が仲いいのは知ってたんよ。ちょっとケンカしても仲直りしてなんだかんだ仲がいい2人やってん。そしたら同じタイミングでその彼氏からもどうやったら気持ちが伝わるかって聞かれてん。けっきょく2人は想い合ってるわけやん。わたしは大好きな人と別れて辛いのにそんなん言われて悲しかった。想いが通じ合ってるならそれでいいやんって。なんでわざわざわたしが辛い時に相談するんやってむかついててん。でも2人とも大事な友達やから突き放すなんてできんかった。そっからやねん、この子に相談してこの子は辛くならんかなって気にするようになってん。例えばやけど母子家庭の子にお父さんがうざいとか言ったとするやん。でも、母子家庭の子からしたらお父さんがおるだけいいやんってなるやん?そんな感じで誰かに相談とかできんくなってた。誰かが辛い想いするなら自分が辛いほうがいいって。自分が追い打ちかけられたからみんなには追い打ちをかけたくないねん。追い打ちをかけられたらどうなるか自分が分かっとるから。ごめんな、一気にしゃべってもうて」

先輩は涙をこらえながら話した。

確かに俺も先輩の立場だったら辛い想いをしてたと思う。

俺はなんて言ったらいいか分からなかった。

「ごめんな、困らせるつもりはなかったんやけどな」

こんな辛い想いをしてる全部になんて言葉をかけたらいいのだろうか。

「先輩は1人じゃないです。辛い想いをしてる先輩はみたくないです。俺じゃ頼りないけど頼ってください。俺ができることならなんでもします」

「1人やねん!」

「先輩、?」

先輩は突然声をあげた。

「人は誰でも1人やねん。前にわたしが歌ってた歌でそんな歌詞があったやろ?人は広い宇宙の中でたった1人やねん。1人じゃない確証なんてどこにもないねん」

俺はたまらなく先輩を抱きしめた。

強く、優しく、抱きしめた。

「ほ、星くん、?」

「確かにそうかもしれません。でもここにいるのは俺と先輩の2人です」

「…」

俺は一旦腕を離し先輩の目を見た。

「人は1人だからこそその人のいいとこも悪いとこもみえるんです。だから傷ついたり傷つけたりする。だから泣いて笑う。そのあとの歌詞はそうですよね?」

俺は先輩の目をみて微笑んだ。

「だから先輩が傷ついたら俺がその傷を癒やします。泣きたい時は抱きしめます。笑いたい時は一緒に笑います」

「っ、」

「“嬉しいことは2倍で悲しいことは半分こ”ってよく言いますよね?先輩の喜びは分かち合いたいし先輩が悲しんでたらその悲しみを俺がもらいます」

先輩は俯いてしまった。

「我慢しなくてもいいです。俺の前でならいくら泣いてもいいです。全部受け止めます」

俺は再び先輩を抱きしめた。

そして先輩は静かに泣きだした。

俺は抱きしめながら先輩の背中を優しく撫でた。