「俺の子を、産んでくれ。君が望むなら離婚しよう。

今ならもう誰にも文句など言わせない。

何なら南十字を捨てたって構わない。俺も君と共にここで暮らそう。

…愛しているんだ、桜」


縋るように握られた手は、とても熱くて。

俯く彼が弱々しく見えた。


「…あの頃も、今も。私は一度だって、離婚してほしいとも、

南十字を捨てて私と生きてほしいとも思ったことはありません」


顔を上げた啓志は今にも泣き出しそうで。


「あの頃の私の願いは、ただあなたのお傍にいること。

そして今はただ、この子が無事に生まれて、成長してくれること」


そっと手を振り解き、愛しそうにお腹を撫でる。


「…あなたとの、子ですから」


微笑むと、抱き締められた。