その言葉であたしは考えないようにしていた過去を思い出し、視線を落としていく。

実家にいた頃、あたしの足元にはいつも「入ってくるな」と言われているかのように、1本の太い境界線が引かれていた。

賑やかな笑い声を聞きながら、涙を流した日々。

あの家には、あたしの居場所なんか1つもなかった。

「……あぁ、先に結婚した妹が離婚してね。実家に帰ってきてるから、もうあたしの部屋とかないの」

メールを送り返した百合は沈黙になったあたしの顔を、首を傾げながら覗き込んでいた。

我に返ったあたしはにっこり微笑み、何事もなかった素振りで返事をする。