「駄目だ。……貯金しとけばよかった」

肩を落として、張り紙から目を離すあたし。

隣にいる百合は「誰かの家に居候させてもらいながら、お金を貯めていけば?」と囁いてくる。

「百合んちは駄目?」

頭の中で知り合いの顔を次々と浮かべたが、その条件に当てはまる人物は出てこない。

困り果てたあたしは、すがるような目で彼女を見た。

「実家だから無理」

考えることなく、百合は即答だった。

眉間にしわを寄せて口を尖らせるあたしは、もう一度、張り紙に目を向けていく。

「てか、実家に帰ればいいじゃん。わざわざ物件なんか探さなくてもさぁ」

鳴り始めた携帯電話を探す百合は、鞄の中に片手を突っ込みながらそう言った。