3LDKの城 ① 途中まで公開


「人聞きが悪いなぁ。一応、俺もついていくって言ったよ? ……陽平ちゃんの耳には届いてなかったみたいだけど」

腰を曲げて花に笑いかけていた常盤は、しらじらしい態度でそっぽを向く。

きっと、全然気づかない俺を見て、面白がっていたに違いない。

仕事用の鞄以外に、大きな荷物をさげている常盤は、「重たい」と言って階段に座り込んだ。

「俺、千草。よろしくね」

常盤は社内の女の子たちを口説くときと同じような態度で、花の手をギュッと握った。

馴れ馴れしい男を前にして、どう接すればいいのか迷っている花は、目を泳がせながら頷くだけ。