「人聞きが悪いなぁ。一応、俺もついていくって言ったよ? ……陽平ちゃんの耳には届いてなかったみたいだけど」
腰を曲げて花に笑いかけていた常盤は、しらじらしい態度でそっぽを向く。
きっと、全然気づかない俺を見て、面白がっていたに違いない。
仕事用の鞄以外に、大きな荷物をさげている常盤は、「重たい」と言って階段に座り込んだ。
「俺、千草。よろしくね」
常盤は社内の女の子たちを口説くときと同じような態度で、花の手をギュッと握った。
馴れ馴れしい男を前にして、どう接すればいいのか迷っている花は、目を泳がせながら頷くだけ。



