嬉しそうな顔で、契約書に判を押す部長。

鞄を持ったままの俺は、窓際にある自分のデスクへ腰かけ、パソコンの電源を入れた。

「さすがだね、陽平ちゃん」

事務員の女の子が持ってきたコーヒーを飲んでいると、隣に座る男に声をかけられる。

軽い口ぶりでニカニカ笑っているのは「常盤千草」。

女性社員からの人気が高く、長めの茶髪が印象的な彼は同い年だけど、俺より半年くらい早くからこの会社で勤めている。

「常盤も昨日、F社との契約が取れたんだろ? 聞いたよ、今朝」

いつもより早く出社していた俺は、社内にあるボードにも目を通していて、常盤の成績も確認していた。

そこには昨日まではなかったはずの社名が書かれていて、後から出社した同僚も「取れたらしいよ」と羨ましそうに言っていた。