リクはなるべく刃物男に自分との会話を集中させて、ユウカはあまり関わらせないことが仕事のうちの一つだ。
ユウカは部屋に入室してから立ち去るまで、向こうから話しかけられない限りは一言も発しなくていい。
『それにしてもこんな若い方だったとは驚きです』
刃物男は歩きながら独り言のように話す。
聞こえてくる多くの足音。
その耳障りな音に紛れて聞こえてくる刃物男の声に、俺はさらに集中した。
『文面からもう少し歳が上かなと思っていましたが、大学生くらいですか?』
きた……。
こっち側の事を少しでも引き出すための質問だろう。
予想はしていたが、随分とストレートに訊いてくるな。
『いやあ、そこらへんは答えられないっすよ。こっちもそれなりにあるんで』
リクが明るく返事をすると、刃物男の笑い声が聞こえてきた。
『ははは。すみません。別に何かを探ろうとかそんなつもりはなかったんですが、ついつい訊いてしまいました』
そろそろエスペラントに到着してもいいはずだ。
俺が視線を移して時間を確認しようとした時、リクたちの足音が止まる。
『ここがエスペラントっす』
着いたか……。
俺は手の平に滲む汗をズボンで拭い、机の上に置いてある冷めたコーヒーに口をつけた。
イヤホンからは自動ドアが開く音が聞こえてくる。
まずはスイートルームの確保からだ。
