女が悲鳴を上げた時、俺は真っ先に立ち位置を確認した。


「男の左手は取っ手がついた鞄を持っていた。右手は吊革。女の立っていた位置は、捕まった男の右側に位置していた。つまり、男は左手で痴漢をしなければならないが、あれだけ邪魔な鞄を持っている奴が強引に手を伸ばして犯行に及ぶと思うか?」


リクはこの説明にあまり納得ができなかったのか、不満げな顔で答える。


「でも、それだけじゃわからねえだろ。もしかしたら、鞄を持ちながら強引に触ってたかもしれねえ」


「かもな。だけど、そこまで強引に触っていたら、スーツの袖が少しはよれているはずだろ? あの男の腕には全くシワがなかった。おそらくクリーニングに出したてなんだろうな」


「すげえな。そんなところまで見てたのかよ」


「まあ、あくまでも推測だから確実じゃないけどな。あの男が犯人の可能性だってあるよ。例えば、第3の腕を使っていたとかな」


「第3の腕?」


リクは訝しい顔をして、次の瞬間には電車内だってのにバカ笑いした。