「え?」
体の中に存在する時計が止まったような感覚だった。
刃物男が吐き出す煙に交じり、自分の思考が狂っていく。
今、俺の名前を言わなかったか?
聞き間違いだった?
いや、確かに俺の本名を口にした。
押し黙った一瞬が、何十秒にも感じるように長かった。
「ははは。そんなに驚くなよ」
刃物男は、灰皿に煙草を押しつけて深い笑みを浮かべる。
「取引の時に動揺を見せたら相手に負けを認めたようなもんだぞ」
次の言葉が出てこなかった。
その表情から読み取れるものは、俺の事は全て知っていると言ったような感じだ。
どうすればいい。
何て答えればいいんだ。
ふと気づくと、全身に冷たくて嫌な汗をかいている。
俺の役割はオトリとなって人間カードになること。
その事に集中しろ。
「取引となる人間カードを持ってこなかったって事ですか?」
考えに考えて、慎重に発した言葉がそれだった。
