ユウカが帰ることに、刃物男がごねなくてよかった。
それに、スイートルームに入ってから心配していたことだが、刃物男に風呂場がマジックミラーである事も気付かれていない。
次はユウカのお父さんのカードを刃物男がちゃんと持っているかの確認だったな。
話しを切りだそうとした時、先に刃物男が口を開いた。
「すみません。煙草を吸ってもいいですか?」
俺の返事を待つことなく、刃物男は上着の内側のポケットから煙草とライターを取り出す。
この一瞬の間に、俺は得体の知れない違和感を覚えた。
別に返事を待つ前に煙草を取り出すことは何もおかしいことじゃない。
だけど、何かが嫌だったんだ。
「どうぞ」
俺の言葉を一応待ってから火を点ける刃物男。
深く吸ってから吐いた煙は、向かい合って座る俺の全身に浴びさせられる。
俺は動揺したのを表に出してしまう前に本題を切り出そうとした。
しかし、それよりも先に刃物男が口を開く。
「では早速始めましょうか」
漂う煙に、さらに煙を被せる刃物男。
「でも、その前に……」
刃物男は煙草を持っていない手の方で、自分の耳を差しながら言った。
「そのイヤホン取ってもらってもいいかな?」
