母親の目の前でこう言い放ったんだ。
あたしは何の関係もない。言い寄られて仕方なく一緒に居ただけだった。
随分と毅然とした態度だったらしい。
自分は何の関係もない、何ならメンドクサイ雰囲気すら出てたって雑誌の編集者は言っていた。
浮気も事実だし、そしてその証言も現実では認められてしまっている。
でも、許せなかったのは、全てを話さなかった事だ。
その女は夜の飲み屋に勤めていて、随分と荒稼ぎをしていた。
客に無理をさせるタイプで、俺の父親もその一人だったって聞いた。
父親に貢がせていたんだ。
事件が起きたきっかけも返しきれないほどの借金を背負っていたからで、もしそんな事が無ければ父親と母親は死ななかったかもしれないんだ。
確かに、傍から聞けば女に貢いで、女に夢中になって、挙句の果てには騙された俺の父親が悪いのかもしれない。
でも、その女は家庭を一つ崩壊させた。
たった一言、「ごめんなさい」の言葉があっても良かったと思わないか?
母さん、あんたは父親じゃなくてその女を刺すべきだったんだよ。
