男はいつもボロボロのスーツでした。



そんな男に
おばあさんはいつも話しかけてくれます。


「今日は寒いねぇ。風邪ひかないようにね」





男は初めは愛想笑いしかできませんでしたが、仕事終わりに何度もおばあさんに会っていると、段々と仲良くなって会話もできるようになってきました。




おばあさんは言います。
「あなたは亡くなったおじいさんに
良く似てるわねぇ。
おじいさんは黒い帽子が大好きでね。
いつもかぶっていたの。あなたがかぶったら、きっとおじいさんソックリになるわねぇ」


男は言いました。
「そんなに似ているのですか?」


「ええ!それはもう本当にソックリなのよ」
おばあさんはバッグから大切にしまってある写真を取り出して見せてくれました。


おじいさんの写真をマジマジと見る男。


でも……
どこをどう見ても自分とは似ていません。




帽子をかぶったら似るのかな?




男はニコリと笑って言いました。
「私は帽子をかぶった事がありません。
スーツに合う帽子を持っていないのです。」




おばあさんはクスリと笑って言いました。
「あなたは帽子をかぶっていなくても
素敵ですよ」


その日は4個もたこ焼きを
オマケしてくれました。




おじいさんの話ができて
おばあさんは嬉しかったのかもしれません。