二年生が使う5号館は昇降口から離れたところにある。
二人は渡り廊下を歩いていた。

「クラスといえばさ、堂本も一緒だぞ」
「え、嘘、由希(ゆき)も?今年面子恵まれすぎかも」
「お前はそうかもなぁ。でも俺一年で仲良くしてた奴誰もいないんだけど」
「うわぁドンマイ」
「ホントにな」

その後も他愛ない会話が続く。
春休み中の部活のこと、来週公開の映画のこと、家族のこと、友達のこと。

「でもまぁ、お前が変わりないようで安心したよ」
「何、どうしたの」

急に真剣な顔をした恭介を、紫は怪訝に思った。

「いや、何つーかさ。去年はお前いろいろあったし」
「……」

歯切れ悪く答えた恭介だったが、やがて首を振って続けた。

「何でもない。やっぱ神経質すぎだわ、俺」
「大丈夫だよ…ありがと」

5号館に辿り着いたところで二人は別れた。
教室のドアを開けた紫は、友達の姿を窓際二列目に見つけて駆け寄った。

「由希、由希、久しぶり」
「ゆかちゃん久しぶりー!また同じクラスだね」

くりくりとしたどんぐり眼を喜色にそめ、堂本由希(どうもと・ゆき)は微笑んだ。

「今年は無理かと思ってた」
「私もー。でもよかった、嬉しい」

由希とは高校入学からの友人だから知り合ってまだ一年だった。
だが素直で穏やかな彼女は、紫にとってなくてはならない存在になっている。
紫は彼女の裏表のないところが好きだった。