私の背後、つまり商店街の入り口から駅へと向かって多くの人が吸い込まれるようにして歩いて行った。その流れと逆らって駅から、歩道橋を渡ったり、地下を通ったりして商店街の方へ向かってくる人もいた。そんな彼らは、商店街の出入り口の真ん中で突っ立っている私を訝しく見た。
私はしばらく周りの景色にあっけをとられて、ひと段落をしてからそのことに気が付いた。
商店街の真ん中に突っ立ているだけでなく、私には人から視線を集める特徴がいくつかあっただろう。べたべたで皮脂にまみれた髪の毛、砂の付いた顔、ほこりや砂がついて少し白く汚れ、なおかつところどころ破れている紺色の少し厚手のTシャツ、同じように破れところどころ汚れたジャージ、そしてなんといっても自分では気にならないというか、鼻がばかになってしまって気にしてない体臭であろう。しばらく風呂という風呂には入ってなかった。
そのことに気が付いた私は、まだそれほど人通りのない商店街の中に入り、裏路地へと入った。商店街は私の記憶している店もあれば、全く知らないテナントも入っていた。商店街に入ってすぐ左の小道へと入った。この裏路地には少し入っていったところに外壁の黒く、赤い提灯を何個かぶら下げた焼き鳥屋さんがあるはずだった。
しばらく少し歩くと、私が記憶していたものとほぼ同じ姿の焼き鳥屋さんがそこにあった。
これが夢でなければ、どうやら、私は別の世界に来てしまったらしい。この商店街もこの裏路地も私の世界では、火の海に包まれ、灰となり、私の世界から姿を消したのだから。
裏路地をゆっくりと歩きながら私は頭の中を回した。これから私はどうすればよいのだろうと。そしてこれまで起こったことは私の頭からいったん排除した。
私はこの時冷静だったと思う。前にいた世界の方がよほどカオスでむごい世界だったからかもしれない。
この世界で私が生き延びるためにするべきことはなんだろう。
そう思って私は、よく昔通った「はず」のデパートへと向かった。