悪い男〜嘘つきより愛を込めて〜

月曜日


一昨日の熱い夜を頭の隅に追いやり、い

つものように出勤した。


零が来るまで掃除をしようと秘書室と副

社長室の間にある応接間に入れば、長い

ソファの上で横になり寝ている人物がい

る。


「……」


気配に気づいたのか無精髭を生やした零

が、土曜の朝に見た彼の服装のまま、乱

れた黒いサラサラの前髪をかきあげ体を

起こした。


「……コーヒー…を頼む」


ハスキーな声がかすれ濁声で辛そうだっ

た。


「…はい…」


急ぎ、秘書室の奥にある給湯室でドリッ

プしたコーヒーを彼の元に運んだ。


「熱いので気をつけてください」


「サンキュー」


疲れた表情で微笑まれ、胸がチクンと痛

んだ。コーヒーを飲む彼の横で私は、彼

の為に私ができる事はないのだろうか?


彼の力になりたいと思ったのだ。


コーヒーを半分ほど飲むと、彼はテーブ

ルの上にマグカップを置き、私の手をと

り引き寄せる。


「きゃー」


彼の膝の上にちょこんと座る姿勢になる

と、私の頭を撫で左手を指で撫でてくる

。


「胡桃、指輪は⁈」


「…えっ、ホテルの部屋に置いてきまし

た」


「どうしてだ?」


頭を撫でながら優しく質問されると一昨

日の事が夢ではなかったのだと感じてし

まう。


「あの指輪は、演技に必要な小道具なの

で私が持っている訳にはいきません」


彼の目がギラついた。


「会社にいる時も、つけてもらわないと

来客の目を欺けないだろう⁈」


「…ですが『俺だ…着替えと一緒に婚約

指輪を持ってきてくれ……どこにある?

』…タキシードのポケットです」


私の声を遮り、電話をかけていた零は指

輪の居場所を聞いてきた。


『だそうだ…慌てなくていい』


そう言うと電話を切った彼は、妖艶に微

笑んだ。


「さて、峯岸が来るまで休むか」


「では、私は掃除をしていますので何か

ご用があればおっしゃってください」


彼の膝の上から降りようとするとぐっと

腰を掴まれあたふたとしてしまった。


「…副社長⁈」


倒れるようにソファの上に寝そべり、零

が覆いかぶさる。


「充電させて…」


⁇


言葉を理解する前に、唇を塞ぎ啄むよう

に何度も優しくキスを落としていく彼の

背に手のひらを添えていた。