「…俺の大切な花だ。昔、大切な誰かに渡したことがあってね。
その子と俺は、幼馴染だった。
親同士、特に母親同士が仲良くてね。それこそ、お花が共通の趣味で。」

「…私のママも、お花好きだよ。」

「俺の方が、すこーしだけ産まれるのが早かったから、俺は産まれたときからそいつを知ってるってこと。」

家も隣同士で、本当に毎日のように遊んでた。
母さんたちが生花とかしているときもね。

…俺は、そいつが大好きだった。
多分、あいつも俺が好きだったよ。

大人たちにも、「小さな夫婦みたい」って言われてたし。


でも、急に父さんが転勤になって。
俺は、引っ越さなくてはいけなくなった。
あいつに伝えたら、案の定すんごい勢いで泣かれた。
…泣き虫だったからね。

無情にも、時は過ぎていって。
ついに、次の日が引越しっていうところまで来た。

「お母さん、僕行きたくない。」
「だめよ。もう決まったことなんだから。」

母さんに直談判したけど、やっぱりだめで。

…今度は、俺が馬鹿みたいに泣いた。

すると、
「…キンセンカ。なんてどうかしら。」

あいつのお母さんが言った。

「花言葉、別れの悲しみ。…春子ったら。センスがいいんだから。…そうね。ユウ、そんなに悲しいなら、カコちゃんにキンセンカを渡しなさい。また、会えるから。」
「カコ、喜ぶと思うわ。そうしてくれると嬉しい。」


それで、引越し前日の夕方、俺はあいつを公園に呼んだ。

なぜかずっとニコニコしていた。

「…なんでそんなに嬉しそうなの?」
「だってユウくん、行かないって言いに来てくれたんでしょ?」
「っ…違う。これを渡しに。」
「…え?」
「これ、お前に。」
「どうして。どうして?ユウくん、行っちゃうの…?」
「うん。ごめんね。」


気づいた。
気づいちゃった…!


「というわけで気づいちゃったよ。好きな花が一緒で、親の趣味も一緒?これって偶然じゃないでしょ。」

そういえば母さん、この家に「帰ってきた」って言ってたよね。
我ながら鈍感すぎたわ。

「感動の再会?俺らってやっぱり、運命?…カコがあの子だ…って、聞いてる?」

…泣いてる?

「…」

「…あの子はお前だったんだね。」

あれ、ピンときてない?
俺の予定だとここで再会のハグなんだけども。
というかやっぱり話聞いてなかった?
それとも…思い出したくなかった?
俺は、こんなに嬉しいのに。


「…よく分からないけど、私、キンセンカが大っ嫌いなんだよ。悲しくて寂しい気持ちになるから。」


「え…」

何それ。

キーンコーンカーン…

「ほら、席座りなよ、ユウくん。」

「あ、うん。」


いつもと全然違う、冷たい声。
せっかくまた会えたのに。

俺、カコを傷つけたの…?

バカみたい。
女を扱うのなんて慣れてるのに、
カコだけは全然分かんない。