「んぅ…」

翌朝起きると、知らぬ間に肩にブランケットがかかっていた。
ママが掛けてくれたのかな。

寝ぼけ眼のまま準備をして、玄関を出るとユウくんが立っていた。

「…おはよう。」
「…机の上で寝落ちたりするな。風邪引くだろう。」
「っ!…なんで。」
一気に目が覚めた。
「窓から見えた。」
「ストーカー…」
「それと、窓の鍵を閉めて寝ろ。」
「は?」
「あれじゃ、部屋に入れちゃうよ。…例えば隣のやつとか。」
「…まさか、ユウくん…。」
「知ってる?窓と窓の距離1mもないんだよ。俺の長い脚があれば余裕だし。」
「不法侵入で訴えるよ。それと、ストーカーも。」
「だって。お前のお母さんに頼もうにも電話とか知らないし、まさかと思って窓触ってみたら開いちゃったし。でも、幸せそうに寝ててベッドに移すのはかわいそうだったから、それはしなかったよ。」


…ユウくんだったんだ。


「もう、いい!」

私はユウくんを置いて、学校に急いでしまった。


ふぅ…
こんなに走らなくてよかったか。
いつもより10分くらい早くついた。
いつもは、本当にゆったりゆったり歩くから。
10分早いだけで、クラスには人がほとんどいない。
みんなチャイムギリギリで入ってくるからね、私もだけど。

私は、キンセンカを取り出した。

「そろそろ話してくれてもいいじゃない…。」
…応答なし。当たり前だけど。

「なーに見てんの。」
「ふぁっ!…ユウくん。」
「約束したのに先に走って行っちゃうとかひどいんだけど。俺、家の前で何分待ってたと思ってるの。」
「頼んでないし。約束も…」
「約束は、したでしょ。」
「…言わないんだね。」
「ん?」
「ブランケットかけてくれたことは言わないんだね。」
「…気づいてたの?」
「…ありがと。」
「…っ」
「…」
「…そ、それより、その手に持ってるのなんだよ。貸せよ。」
「いゃ、あ…」
「…これって。キンセンカ…」
「え、知ってるの?意外。お花とか全然知らなそうなのに。」
「知らないけど、これだけ知ってる。」
「そう。」
「母さんが、花好きでね。でも名前を覚えたのは、キンセンカだけ。」


「…俺の大切な花だ。昔、大切な誰かに渡したことがあってね。…」
急に、独り言のようにつぶやく。
またあの懐かしい眼差しで。

「私のママも、お花好きだよ。」

何故だか苦しい。
ユウくんの大切な人って誰なんだろう。今はどうしているんだろう。
…なんで私はこんなこと気にしているんだろう。

あの麗らかな日差しも名残惜しそうな一筋の冷たさも、
ユウくんの眼差しも…

全部、全部嫌だ、嫌だよぉ。
全然懐かしくなんてない…苦しい。
〝大切な人〟に向ける、その表情が…!


私が我に帰ると、一通り何かをしゃべり終わって言った。

「…というわけで気づいちゃったよ。好きな花が一緒で、親の趣味も一緒?これって偶然じゃないでしょ。俺らやっぱり、運命?…あの子はカコだ…って、聞いてる?」

「…」

「…あの子はお前だったんだね。」

ちょっと、話についていけない。
聞いてなかったのが悪いけどさ。

「…よく分からないけど、私ね、キンセンカが大っ嫌いなんだよ。悲しくて寂しくて苦しい気持ちになるから。」


「え…」



思い出すのは、
いや、ちゃんと気づくのは、
ちょっとだけあなたが早かった。