かなり遅い時間になっちゃった。
ママへの言い訳を考えながら家の前に着くと、
私の家の門の前にユウくんがいた。

何だろう、
何でだろう。

会って1,2週間しか経ってないのに、
ユウくんを見るとこんなにも懐かしさを感じる。

気のせい、じゃ済まされないことくらい私だって分かってきた。

「よ。遅かったじゃん。」
「友達と話し込んじゃって。」

脳みそや心は知らないと言っているのに、
細胞一つ一つは「知っている」と言うみたい。

その目を私に向けないで。
…心が乱れるから。

「俺の部活の時間より長いってどんな話だよ。」
「…」
「…いいけど。」

きっと、7歳の頃の私は、
〝あの日〟を封印したかったんだよ。

だって。だって…。
こんなにも思い出せないんだもん。

だから。
あの綺麗で冷たい景色だけを脳裏に焼き付け、消えてしまったんだよ。

「…じゃあ、また明日。あ、明日朝練ないから学校一緒に行こうよ。」
「え…う、うん。」
「あ、珍しく素直。」

そう、あの景色とあなたの瞳はあまりに似過ぎている。
鋭く見つめられても、無邪気に笑いかけられても。
全部似てる、あの日に。

勝手な話なのは分かってるけど。

「…私が帰ってくるまでここで?」
「カコは無防備すぎるから夜の道は危ない。」
「私、そんなにバカじゃないよ。」
「あと10分遅かったら探し回ってたよ。」

あと10分?
携帯を見ると、19:53の文字。

「8時門限って。…小学生じゃあるまいし。」
「いいじゃん。昔から門限は8時なんだよ。お前の門限は小学生のままずっと同じでいい。」
「子供扱い?」
「…それより、ねぇ。なんで俺の顔見ないの?」

何でって…


「強くて優しくてまっすぐで冷たくて、懐かしいから…」

何を言っているのだろう、私は。

「…知ってるから、怖いから。」

言葉が止まらない。

「何だよそれ。ま、いいや。おやすみ。」

私の顔を覗き込んで、頭をポンとすると、
ユウくんは帰っていった。